省エネ基準の強化や、不動産評価におけるESGの定着により、オフィスや商業施設、ホテルなどの開発プロジェクトでも環境配慮は無視できないテーマになりました。どこまで環境性能を高め、費用対効果をどう社内で説明するか。悩んでいる担当者も多いのではないでしょうか。
こうした課題に向き合うための考え方が、サステナブル建築です。この記事では、サステナブル建築の基本を押さえたうえで、導入メリットと課題、具体的な技術・設計手法、国内事例を解説します。社内説明やパートナー選定で押さえたい視点も取り上げます。
サステナブル建築※とは、設計・施工・運用の各段階を通じて、地域レベルでの生態系の収容力を維持しうる範囲内で、(1)建築のライフサイクルを通じての省エネルギー・省資源・リサイクル・有害物質排出抑制を図り、(2)その他地域の気候、伝統、文化および周辺環境と調和しつつ、(3)将来にわたって人間の生活の質を適度に維持あるいは向上させていくことができる建築物を構築することを指します。 持続可能な社会の実現に向かう流れの中で、このサステナブル建築への注目が高まっています。
サステナブル建築が注目される背景には、地球温暖化に伴う「脱炭素化の推進」に加え、「企業の説明責任(ESG・SDGsへの対応)」や「利用者の健康・快適性への関心の高まり」といった、不動産に対する評価軸の変化があります。
建築は、都市のエネルギー消費や温室効果ガス排出に大きく関わる領域です。
国連『世界都市化見通し2025年版』によれば、2050年までに増加する世界人口の約2/3は、都市で生じると予測されています。都市は世界のエネルギー消費の約78%を占め、温室効果ガス排出量の約60%以上を生み出すとされています*。
今後さらに人口が都市へ集中するなか、建築分野での脱炭素対応は急務となります。
建築分野での脱炭素対応は急務となります。
*出典:国連人間居住計画(UN-Habitat)「Seizing the Urban Opportunity: A 3-step guide for strengthening Nationally Determined Contributions (NDCs) 3.0」(2025年)
また、パリ協定の1.5℃目標を踏まえ、建築分野でも、エネルギー使用量の削減、再生可能エネルギーの活用、建物の長寿命化を見据えた計画が、脱炭素対応の基本になります。
省エネルギー性能の向上や環境配慮型建材の採用、地域と調和した計画は、企業の環境方針を建物として可視化します。投資家や金融機関、テナントに対しても、企業姿勢を説明する材料になります。
さらに、将来的な規制強化や市場評価の変化に備えるうえでも、建物の環境性能は無視できません。サステナブル建築は、企業の社会的責任を示すだけでなく、長期的なリスク管理の面でも検討すべきテーマになっています。
自然光を取り入れ、空気質や温熱環境に配慮した建物は、利用者にとって快適な環境をつくります。テナントにとっても、そうした室内環境は入居先を選ぶうえで重要な判断材料です。
サステナブル建築では、エネルギー性能だけでなく、健康や快適性を支える室内環境も計画段階から検討することが重要です。
サステナブル建築は、企業姿勢を示す取り組みにとどまらず、法制度の面でも事業計画に関わるテーマです。
特に省エネ性能は、建築確認や設計初期の判断に直結する条件として扱う必要があります。
2025年4月以降に着工する原則すべての新築住宅・非住宅には、省エネ基準への適合が義務づけられました。建築確認の対象となる建築物では、省エネ基準に適合しなければ確認済証が交付されず、着工に進めません。このため、省エネ性能は「付加価値」ではなく、企画・設計の初期段階から「満たすべき前提」へと位置づけが変わっています*。
義務化はゴールではありません。2026年4月1日以降に建築物エネルギー消費性能適合性判定(省エネ適判)を申請する中規模非住宅建築物(延床面積300㎡以上2,000㎡未満)の省エネ基準が、用途に応じて引き上げられました。
つまり、これから計画する建物が、竣工後わずか数年で「基準を下回る資産」になりかねません。現行基準を満たすだけでなく、2030年度に向けたZEB水準への基準引き上げ*や、テナント評価、資産価値まで見据えた性能設定が必要です。
*出典:環境省「ZEB PORTAL」
開発事業でサステナブル建築を検討する際は、地球環境、地域・社会、建物を使う人と運用という、異なるスケールから見る必要があります。
省エネでは、高断熱・高気密化やLow-Eガラスの採用、日射の調整などにより、空調負荷の低減を図ります。
創エネでは、太陽光発電や地中熱利用などによって、建物で使うエネルギーの一部をまかないます。
資源循環では、リサイクル建材や再生材の活用、LCA(ライフサイクルアセスメント)を踏まえた建材選定が検討項目です。
建設時だけでなく、運用時や将来の改修まで見据えて環境負荷を抑えることが、サステナブル建築の基本になります。
景観や歴史を踏まえたデザインは、建物と周辺環境の調和を考えるうえで大切な要素です。地域材や国産材の活用は、木材の輸送にかかる環境負荷、いわゆるウッドマイレージを抑える点でも意味があります。また、地域経済との関係をつくるきっかけにもなります。
オープンスペースの設置や防災拠点としての機能など、地域に開かれた役割をどう持たせるかという点も、開発事業の評価に関わります。
健康・快適性では、自然採光や通風による快適な室内環境づくりに加え、低VOC建材の採用など、空気質への配慮も求められます。こうした室内環境は、集中力や満足度を左右します。
長寿命化・維持管理では、耐久性のある構造に加え、改修・設備更新に対応できる設計が欠かせません。スケルトン・インフィルの考え方を取り入れることで、用途やテナントが変わっても、建物を良質なストックとして使い続けられます。
サステナブル建築のメリットは、環境負荷の低減だけではありません。運用コスト、不動産価値、企業評価、利用者の満足度など、開発事業の判断に関わる複数の面で効果を発揮します。
高断熱・高気密化や高効率空調、LED照明の導入により、空調や照明にかかるエネルギー使用量を抑えられます。太陽光発電を導入する場合は、自家消費によって購入電力量を削減できます。初期投資だけでなく、運用時の光熱費や維持管理費まで含めたLCC(ライフサイクルコスト)の視点で判断することが重要です。
環境性能の高い建物が賃料や取引価格で上乗せ評価されることは、「グリーンプレミアム」と呼ばれます。
第三者認証は物件評価の根拠となり、将来的な規制強化や市場評価の変化に伴う座礁資産化リスクを見極める材料にもなります。
LEEDやCASBEEなどの第三者認証を取得することで、投資家、取引先、テナントに対して、建物の環境性能を客観的に説明できます。
ブランドイメージの向上だけでなく、ESG情報開示や資金調達の場面でも、環境配慮を具体的に示す材料になります。
<参考>
LEED認証とは
U.S. Green Building Council(USGBC)「LEED rating system」
CASBBEE(キャスビ―)とは
一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター「CASBEE(建築環境総合性能評価システム)」
一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター「CASBEE評価認証制度」
快適な室内環境や健康・働き方への配慮は、入居者や利用者の日々の満足度に関わります。オフィスや商業施設では、そこで過ごす時間の質が、入居先としての評価や施設の選ばれ方にも影響します。
サステナブル建築を導入する際は、初期コストや専門性、効果の可視化が課題になります。計画初期から費用対効果や認証、運用後の測定方法を確認しておくと、社内説明や事業判断に必要な材料をそろえられます。
社内説明や投資判断では、環境性能を数値や根拠で示せないと説得力を欠きます。設計段階ではエネルギーシミュレーションや第三者認証、竣工後はBEMSの実測データを活用できます。
高性能な断熱材や高効率設備、再生可能エネルギー設備を採用すると、初期投資は大きくなります。補助金や税制優遇、グリーンファイナンスを活用し、LCCを踏まえて投資判断を行うことが重要です。
設計初期から専門的な検討が必要になります。
企画段階から設計・施工まで伴走できるパートナーの選定が、事業の進め方を左右します。
環境性能の高さを数値や根拠で示せないと、社内説明の説得力を欠きます。設計段階ではエネルギーシミュレーションや第三者認証やBEMSによる実測データが、その裏付けになります。
サステナブル建築では、省エネ、再生可能エネルギー、建材、長寿命化、水資源など、複数の領域から環境性能を高めていきます。ここでは代表的な技術と設計手法を紹介します。
パッシブデザインは、機械設備だけに頼らず、外皮性能の向上や採光・通風の工夫によって空調・照明のエネルギー消費を抑える考え方です。太陽光発電は、自家消費を進めることで購入電力量の削減につながります。建材選定においては、木材のように炭素を貯蔵できる素材を含め、ライフサイクル全体で環境負荷の低い選択が求められます。長寿命化は、スケルトン・インフィルによって構造体と内装・設備を切り分け、将来の用途変更や設備更新に対応しやすくする手法です。
国内でも、オフィスビル、商業施設、公共・教育施設、集合住宅・戸建住宅などで、サステナブル建築の考え方が取り入れられています。
用途ごとの代表的な事例(他社事例を含む)から、環境配慮をどのように実践しているかを紹介します。
「横浜グランゲート」
自然通風や自然採光、放射空調、外構緑化などを取り入れた大規模賃貸オフィスです。「CASBEE横浜・Sランク」、「LEED-CS GOLD」、オフィスワーカーの健康・快適性を評価する「WELL-Core&Shell GOLD」も取得しており、環境性能と快適性を両面から高めています。
<参考>
清水建設「『横浜グランゲート』がWELL認証ゴールドランクを取得」(2022.11.9)
「横浜野村ビル」
BEMSや自然通風、緑化などを採用した大規模オフィスです。「CASBEE Sランク」、4「LEED CS GOLD」、社会・環境貢献緑地評価システム「SEGES」などの認証も合わせて取得しており、環境配慮を建物性能だけでなく、オフィスの価値として示している点が特徴です。
<参考>
野村不動産「国内最大級の基準階床面積『横浜野村ビル』竣工」(2017.2.13)
SEGES 認定サイト「横浜野村ビル計画」
「新風館」
旧京都中央電話局の歴史的建物を一部保存・改修し、中庭を中心とした複合施設として再生された事例です。既存建物を生かした再開発で、「LEED Silver」認証も取得しています。
<参考>
NTT都市開発「『新風館』がLEED Silver®認証を取得」(2020.10.27)
「渋谷パルコ」
建て替えにより立体街路や屋上広場、壁面緑化を取り入れ、都市の中に緑と滞在空間を設けています。
いずれも、環境配慮を来訪者の体験に結びつけ、施設のブランド価値として見せている事例です。
また、「渋谷パルコ」は、国土交通省平成28年度「サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」に「Next 渋谷パルコ meets Green」として採択されています。
環境配慮を来訪者の体験に結びつけ、施設のブランド価値として見せている事例です
<参考>
築研究所(国交省事業)「Next 渋谷パルコ meets Green」完了プロジェクト紹介
01kanryou.pdf / 採択時PDF
「国立競技場」
47都道府県から調達した森林認証材を軒庇に用い、「風の大庇」や「風のテラス」で自然の風を観客席に取り込む環境共生型スタジアムです。
<参考>
林野庁「『国立競技場』における木材利用の取組」
MUFGスタジアム(国立競技場)公式サイト 施設紹介(「風の大庇」「風のテラス」)
「早稲田大学 早稲田アリーナ」
建物の大半を地下に配置し、屋上緑化や地中熱利用によりZEB Readyを達成しています。
<参考>
早稲田大学 カーボンニュートラル社会研究教育センター「キャンパスの建築物におけるZero Emission Building化への取組み」
早稲田大学「早稲田アリーナ 第1回SDGs建築賞 国土交通大臣賞を受賞」
両事例は、省エネルギーや自然環境の活用を、多くの利用者が訪れる大規模施設の価値として示している点が特徴です。
ZEH-M(集合住宅向けZEH)は、省エネ性能を見る基準のひとつになります。
一方、LCCM住宅は、建設から居住、解体までのライフサイクル全体でCO2収支をマイナスにする点に特徴があります。住宅開発では、省エネ基準の引き上げや資産価値の維持を見据えて、どの水準の環境性能を計画に組み込むかが焦点になります。
<参考>
環境省「住宅脱炭素NAVI 省エネ住宅とは」
一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター「LCCM住宅認定」
サステナブル建築は、環境対応だけでなく、経済性、企業の社会的責任、利用者の快適性をあわせて考える建築です。
初期投資は大きくなる場合がありますが、補助金や税制優遇、グリーンファイナンスの活用、LCCを踏まえた投資判断により、長期的な負担を抑えることができます。
省エネ基準適合義務化やZEB水準への移行という制度の流れを踏まえると、サステナブル建築は一時的なトレンドではなく、将来の事業価値を支える戦略的投資といえます。
「社内の意思決定者に費用対効果をどう証明すればいいか分からない」「自社案件ではどの認証を目指すべきか」——こうした初期構想段階の課題に対し、ノムラアークスは企画・コンサルティングからデザイン・設計、施工までを一貫して伴走します。
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